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延焼し続ける「保育園落ちた」ブログ問題と“育児問題”に長年潜むもの by kikka303

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「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルのはてな匿名ダイアリーが書かれてから1ヶ月が経過したが、いろんなところに飛び火し続けて、連日、この話題を見ない日はない。

うかつにこの問題に触れて炎上する類のニュースが多いが、最近だけでも

・全校集会で「女性は子どもを二人以上産め」と言った校長

・「#保育園落ちたの自業自得だ」というハッシュタグをつけてコメントし、炎上したAO入試専門塾の塾長

・「日本死ねって言うなら日本に住むな」と言った杉並区議

……などなど。 

杉並区議については、以前も育児関連で炎上したことがあるだけに「またお前か」という感想をお持ちの方も多かったのではないかと思うが、親族が運営する幼稚園・保育園の理事を務めているという立場での発言であることが、プラスの燃料となったのはあるだろう。

 

大喜利にできない空気の“育児問題” 

インターネット(主にTwitter)では何か大きなニュースが飛び込んでくるたび、翌日にはそのネタをいじった大喜利がはじまるのが常である。

年始早々からビッグニュースがワイドショーを賑わせている2016年だが、“ゲス不倫”と呼ばれた方々も、解散が危ぶまれたグループも、逮捕された元選手も、どうでもいい三角関係が話題になった"イケメン”も、そのうち誰かがネタに昇華し、やがて消費されていった。

その一方で、育児関連のニュースに関してはあまり大喜利になったのを見たことがない。大喜利にして笑うのではなく、連日誰かが誰かを叩き合う。そして、それが飛び火して、翌日には別の人同士が叩き合う。

この件について、炎上問題に詳しいある方の言葉を借りれば「(社会における)育児問題はガチのやつだから、うかつに触れてはいけない」のだそうだ。

私が親になっての5年だけでも、ベビーカー論争、マタニティマーク問題、過熱する保活……どれひとつ、誰かがネタにして笑い話になるでもなく、定期的にぶり返しては叩き合いがタイムラインを埋めている。

 

これはなぜなのか、ずっと考えているところなのだが、ひとつには「解決策を誰も持っていない」というのがあるのではないだろうか。

・子を持って困ること(例:ベビーカーでの移動、保育園に入れない、など)が起きる

→"子持ちという存在を気に入らない層”がどの時代にも一定数いる

→"気に入らない人”にとっては相手の存在が消えないかぎり解決しない問題

→"他人がどう思おうと今子どもはここにいるし、生活はしていかないといけない”親子たちと、子ども(もしくは子連れの親)が目に入るだけで嫌だと感じる人々との軋轢

 

風化すれば忘れて終わりになるスキャンダルと違い、これについてはお互いの存在があるかぎり解消しない問題である。

また、「私の時代はそんな便利なものなんかなかったから、何にも頼らないで育児を成し遂げたのに!」という嫉妬、事情があって子持ちや妊婦に優しくできる心境ではない、身近に小さい子がいない生活をしているので、子どもの声が騒音として苦痛に感じる……など、育児問題について声を上げる人々を快く思わず「それよりもっと優先されるべきものがあるだろう」と感じてしまう人もいる。

 

少子化に伴い、子どもを持つ世帯というのがマイノリティになりつつある。

数の論理だけで言っても、声を上げずにぼやぼやしていると、政治的に後回しにされがちなのが育児関連だ。

その結果、さらに少子化は進むのであろう。

 

……それでいいのだろうか。

「日本死ね!!!」と滅亡を祈る前に、今、日本は放っておいても死に急いでいないだろうか。

 

「保育園一揆」はある種の「お母さん解放運動」である説を唱えてみる 

今回の「保育園落ちたブログ」、すべてのタイミングがピタリとハマったがゆえの盛り上がりなのだと思っている。

女性として生きてきて40年近くになるが、独身女性として生きているだけでも様々な区別や差別を味わってきた。

「女性ならではの特権」も若い頃のほんの数年、一瞬だけあったことも認めるが、差別100に対しての2といった程度だろう。

同じ仕事をしていても給料が少ないことを知った時のショックはいまだに忘れない。

女だからという理由で、諦めなきゃいけないこともあった。 

年頃になると「結婚はまだか、子どもはまだか」とプレッシャーを受けるようになる。

 

「子供を持てばやがて苦痛も失せるのか」とかつて椎名林檎は歌っていた*1が、そんな気持ちもあり、30を過ぎてから子どもを持ってみたが、さらに苦痛は増すのだった。

世間から勝手に「母親」というカテゴリに放り込まれ、ちょっと乱暴な口の聞き方をすれば叩かれる。

「お母さんだから」という理由でなんとなく保育園の連絡先順位の1位になり、週に3度はお迎えの電話がかかってきて、職場では満足なパフォーマンスを出すことが許されず、出世の道は絶たれる。 

それでも子どもがほしいと第二子を妊娠すれば、担当者からは「おめでとう、っていうか仕事どうすんだよ、困るよ」と言われ、人事からは「非正規雇用者に育休は出せないから、産後すぐ復帰するかやめてください」と二択を迫られる。

早生まれのため4月入園に間に合わず、いろんな手をつくして5月に無理やり復帰するも、体を壊し、遠い保育園にしか入れなかったため交通費が倍になった。

上の子のいる園に転園を申請するも、すでに認可保育園に登園しているので、育休明けで復帰する兄弟加点の人よりポイントが少なくなり、兄弟同園がかなわなかった。 

子ども2人で通算4度の保活を経験しているが、今回の保活は、そのなかでも桁違いの激戦であった。

 

──これまでの蓄積された鬱憤がまずあり、その上での保育園の結果。

もし彼女が1ヶ月前にあのブログ記事を書かなかったとしても、私や誰かが「日本死ね!!!」と書いたことだろう。

"機は熟した”。

ただそれだけの事だったのだと思う。

 

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声が上がった以上、中途半端に政府が対応すれば火に油を注ぐだけの結果となり、毎日誰かがが殴り合いをする姿は容易に想像がつく。

 

箱をいくら増やしたところで働く人が増えなければ、保育園は枠を増やせない。

私はかねてからいろんなところで申し上げているが、人間のモチベーションは、まず金だ。

保育士の待遇や保育園の整備にどのくらい予算をつけるかどうかで、国や自治体の本気度が図れるのではないだろうか。

逆に金をケチるような素振りが今後ニュースで報道されるようなら、日本は本当に死んでしまうのかもしれない。

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著者:kikka303
年齢:39歳
子どもの年齢:5歳・1歳

1976年東京生まれ、都立北園高校出身。東京モード学園に進学するもインディーズブランドブームにのって学校を中退、以降フリーランスのデザイナーとして活動。その傍ら、複数のテレビ局にてデジタルコンテンツを担当。2010年に結婚&出産。現在は都内某所にてWEBディレクター職についている。超イクメン夫、チャラい長男、食いしん坊な次男との4人暮らし。

※プロフィール情報は記事掲載時点の情報です。

 


*1:

作詞作曲:椎名林檎 2003年「意識」からの引用