こんにちは、産婦人科医のきゅーと申します。
前回は、「切迫早産」についてお話しさせていただきました。
今回のテーマは「妊娠糖尿病」。前回同様、「とにかくわかりやすく信頼できる妊娠情報」をモットーに説明したいと思います。
栄養過多な時代に生きる妊婦さんの悲しき宿命
妊娠糖尿病とは、妊娠をきっかけに血糖値が上がってしまう病態です。
「糖尿病になる理由が妊娠って。意味がわからん」という声が聞こえてきそうですが、仰る通り。そこには一筋縄ではいかない仕組みがあるのです。
突然ですが、日本の昔ばなしに出てくる一般人のご飯って、かなり貧相なイメージですよね。少しの野菜に雑穀。常に飢えとの戦いで、白いご飯なんて一生のうちで食べられるかどうかのご馳走だったはずです。
何が言いたいかというと、
人類の歴史においては、飢餓と戦う生活の方が圧倒的に長かったということ。
人間の体には、飢えに対する体の防御機能は数限りなくあるのです。妊娠中に関しても同様で、食事がままならない状況でも赤ちゃんにできるだけ栄養をあげられるようにと、胎盤から血糖値を下げる働きを持つ”インシュリン”を妨げるホルモンが自然に出される仕組みが、妊婦さんの体には備わっているのです。
飢えとの戦いの歴史のなかで、赤ちゃんを守ろうと身につけたミラクル!
それが今じゃ、ハンバーガー、コーラ、ピザ、牛丼…と高カロリーなメニューだらけ。
でも、ここ100年~200年の栄養過多な期間は、人類の歴史から見ると一瞬にも満たないんです。体の仕組みは昔のままなのに栄養過多。
普通に生活しているだけで、誰もが妊娠糖尿病になりうる危険性を持つ時代です。国が妊娠糖尿病についてガイドラインを定め、妊娠初期、中期の健診で、しっかり血糖検査しているのはそのためです。
妊娠糖尿病になるとおなかの赤ちゃんにも影響が
「妊娠糖尿病になったって、妊娠中だけの話だから問題ないんじゃない?」と思っているあなた。妊娠糖尿病は産後、糖尿病に移行する確率が高いんです。さらに、妊娠糖尿病は、お母さんだけの問題じゃないんですよ~。
高血糖の血液は胎盤を通じて赤ちゃんに移行しちゃうんですよ~!!(←ここ重要)
赤ちゃんの栄養は、お母さんの生活習慣とリンクしてます。
ということは、ママが摂取した過剰な栄養により赤ちゃんも高血糖になります。羊水の量も増加し、巨大児や突然死につながる危険性も高まります。
では、妊娠糖尿病を予防するためには、どうすればよいでしょうか?
糖尿病の治療は血糖値を下げるインシュリン(内服薬では無く、注射)を投与しますが、重症でない限りは、食事療法でなんとかなることがほとんどです。
具体的には、大食い、早食いに注意し、ゆっくり食べる。糖をガッとあげちゃうような食べ物(清涼飲料水や炭水化物)を減らす。1回の食事量を減らし、食べる回数を増やすのが有効です。
3年前に、妊娠糖尿病のガイドラインが変更になったため、以前より指摘を受ける人が3~4倍にも増加しました。妊娠糖尿病は遺伝的な要因もありますが、妊婦さんの生活習慣によるケースがほとんど。誰もが成りうる病気だということを意識しておいてください。
ゼクシィBaby WEB MAGAZINEの記事
都内の某大学病院で働く産婦人科医・医学博士。アメブロ公認トップブロガー。「専門的な知識をとにかくわかりやすく!」をコンセプトに開設したブログ「産婦人科医きゅーさんが本当に伝えたい事」が評判を呼び、現在23000人を超える読者に向け産婦人科の知識を伝えている。
書籍:『妊娠・出産を安心して迎えるために 産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』(KADOKAWA)