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「明日もまたやりたい!」「あと10人生んでもいい」とにかく楽しかったお祭り騒ぎのお産レポート by 田房永子

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誰よりも迅速で、スマートで、痛くない、トップオブ安産を目指して突っ走ってきた私。

実際には一体、どんな出産をしたのでしょうか。

結果から言うと、「すごく楽しかった!」です。

 

予定日は3月の上旬でしたが、とにかく陣痛が起こりませんでした。この頃は安産への欲望が消滅しており、お産が来るための運動(階段を昇るとか)をする気になれず、一切しなかったからかも。

予定日から6日経った金曜日のこと。「来週の月曜日、陣痛促進剤を打ってお産を始めましょう」とお医者さんが言いました。

数ヶ月前の私が聞いたらたぶん、ものすごいショックを受けていたと思います。「薬も道具も、何も使わないお産」が一番だと信じていたから。

でも、安産へのギラギラが抜けていたので、「そっかあ、このまま出てこなかったら困るもんなあ」とポヤ~と思いながら、土日を過ごしました。そして月曜日、やっぱり陣痛が来なかったので、きっちり朝9時から促進剤の投与が始まりました。

 

私の場合、「これから陣痛が始まる」と分かっている状況だったから、あまり参考にならないかもしれないですが、このようなことを気をつけました。 

1.今まで聞いた「痛くなかったよ」体験談を思い出して、それだけで心をいっぱいにする

2.とにかく痛みに逆らわない(イヤだ、と思わない。「いいですねぇ、ハイハイ、来てますねぇ」というテンションで陣痛を受け入れる)

3.「怖い」「痛い」と思わない 

この3つを守りながら、陣痛が来たら「スー(長く細く吸う)、ハー(長く細く吐く)」という呼吸法に集中しました。最初の頃は、そんなに痛くないからそれだけで大丈夫でした。

 

だんだん痛みが強くなってきたら、陣痛の度にイメージトレーニング法(イメジェリー)を実行しました。「お花が開いていく映像を思い浮かべる」っていうのを習ったけど、私は勝手に「ハワイの海の波」を思い浮かべました。痛みの強さに合わせて、波も大きくなる映像。『陣痛の波も、海の波の大きさが変わるのと同じなんだ』、と自分を納得させる感じです。

分娩室で、ひたすら一人で「スー、ハー」していたら、助産師さんが「今かなり痛いはずなんだけど、ぜんぜん痛くなさそうですね」「痛みに強いほうですか?」と何度も聞いてきました。

そこで、「もしかして、私は単純に痛みに強い体なのかもしれない」と思って、試しにイメージも呼吸もやらずに陣痛をそのまま体感してみることにしました。そしたらドドド・・・と激痛が襲ってきて、めっちゃくちゃ恐ろしくなり、「これ(3つの意識、イメージ、呼吸)でちゃんと痛みを散らせているんだ」ということが分かったので、慌ててイメージと呼吸を再開しました。

 

「散らす」というのは、痛みが完全になくなるわけではなくて、自分よりもかなり遠くのほうで痛みが起こっている、みたいな感じです。痛覚は、自力で麻痺させることができるんだと思います。 

激しい痛みを感じると、「恐怖」が湧いてきます。それは「何が起こってるのか分からない」という怖さであり、そこに集中してしまうと、「私はどうなっちゃうんだ?!」というパニック状態になります。パニック状態になると、痛みは倍増して感じられます。私はパニック状態にならないように気をつける、という作業を続けていたのでした。

だから、前々回書いたように周りの人たちが「陣痛、痛いわよ~」「痛いよ~、覚悟してね~(笑)」とか漠然とした、不安をあおることを言うだけで、実際の痛みが何倍にも多く感じられてしまうと思うんです!

 

そんなこんなで、夕方の5時30分。急に「子宮口全開タイム」になり、その5分後には「いきみタイム」になりました。

突然、「フナアーーーーー!!!」という、夜中に近所から聞こえる猫の叫び声みたいなのが自分の体から出てきて、いきんでるうちに、赤ちゃんの頭が自分の大陰唇に触れたのが分かりました。

それまで胎動はあっても、本当に赤ちゃんの体がお腹に入っているという実感はなかったから、「頭的なもの」を自分の皮膚で感じた時、「アハハハハハ!!!」と笑ってしまいました。

面白い、出てくる出てくる! 

いきむタイミングになると、「ヨイショー」という感じで私の肛門をテニスボールで押さえてくれる助産師さん、「フナーーー!!!」と叫ぶ私、「いいよ、上手いよ」「いきみ方、上手だよ~」と声をかけてくれる先生、青ざめて黙ったまま私の手を握る夫。

その空間は、とてもリズミカルで、まるで「餅つき大会」でした。

ヨイショー! ドッコイショー! という感じが面白くて、赤ちゃんが出てきたらもう、「YEAHHH~~~!!!!!」とアメリカンなテンションになってしまい、ニコニコ、ギャハギャハな気分でした。

あとで聞いたところによると、お産の時にハイな状態になる人がいるそうです。私はまさにそうでした。

結局、陣痛促進剤を使って9時間かかった私のお産。思い描いていた「トップオブ安産」ではなかったけど、そんなことはもう気にならなくなっていました。

とにかく楽しくて、「明日もまたやりたい!」と思ったし、「あと10人生んでもいい」と分娩当日に思った気持ちは今も変わってないです。

 

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田房永子

1978年東京都生まれ。2000年漫画家デビュー、翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。コミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA中経)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。2作目『ママだって、人間』(河出書房新社)では、自身の妊娠・出産について執筆。妊娠中や0歳育児で感じた、母乳信仰や母性神話の不合理さについてのエッセイ『母乳がいいって絶対ですか?』(朝日新聞出版)など話題作を続々と発表中。

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