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「つわりは我慢すべきもの」「点滴はよっぽどひどい人だけ」という当たり前に疑問! by 田房永子

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 5年ぶりの妊娠、5年ぶりのつわり。

 前のつわりのツラさが10だとしたら、今回は6.5くらい。だけどそれでもとてつもなくツラかったです。

 何を食べていいのか分からないので、ネットで食べ物の画像検索をする。しかしトマトや果物、カルボナーラやオムライスの写真を見ても、それらがどんな味だか全く思い出せない。人は、食べ物の画を見た瞬間にその味の記憶を思い出して食欲が湧くというシステムなんだ、ということが分かりました。そして今の自分にはその「記憶」がゴッソリ無い! どこ行ったんだ?

 最終的に「カルピスを飲む」しかできなくなり、1ヶ月で体重が6キロ減りました。

 

 妊娠が判明した際の周囲の人への申告というのは、つわりの時期は「まだ言わない」という選択をする人が圧倒的に多いと思います。そういう状況だからか、入ってくる情報量が限られることになる。

 私の場合、体もツラいから人に会ったりはせず、ネットで適当に「つわり ツラい」とか検索するだけでした。

 そんな中、気のせいかもしれませんが「つわりがつらかったら点滴打ってもらおう」という情報が、5年前より多く言われてるような気がしました。前は、よっぽどひどい人だけが点滴を打てる、みたいな認識でした。その「よっぽどひどい」の基準が、体重が10キロ減ったとか、お医者さんに「妊娠悪阻」と診断された、とかだと記憶していたので、「自分は当てはまっていない」と思っていて、つまり「点滴を打ってもらえる対象ではない」と思い込んでいました。

 

 それに、つわりというのはツラくても「赤ちゃんが元気な証拠だよ♪」とか「一生続くものじゃないからがんばって☆」等という“気休めフレーズ”によってもみ消されることが多いです。もみ消すのは、周囲の人でもあるし、妊婦本人でもある。

 私もなんとなく「つわりはツラくてもひたすら耐えて我慢しなければならないもの」と思い込んでいて、さらに「前のつわりよりはひどくないから大丈夫だ」と思っていました。そうやって「カルピスしか飲めない、たまに食べられそうっていうのはきゅうりのぬか漬けだけ、食べてみると何も入ってない胃にきゅうりが直撃してめっちゃ気持ち悪くなって寝込む」という生活を、仕事や上の子の世話をしながら1ヶ月以上送っていたのです。

 

 8月に入った頃、子どもと歩いている際、めまいがしてフラフラで「事故に遭いそうでやばい」と思いながら歩いていました。息ができなくてハーハーしている時、子どもに予測不能な動き(地面のタイルの模様の白い部分だけを踏んで歩く、など)をされると、「ちゃんと歩いて」と普通に言おうとしても「もうやめてぇえええ!!!」とか、悲鳴みたいな声になってしまいます。こっちはマジで命からがらな状態なので仕方が無いと思う。

 しかし子どもにとっては理不尽だし、道を行く人々にもいろいろ迷惑だから、これはもう通っている産婦人科で点滴を打ってもらおう! と決意しました。

 

 診察の際、ものすごく緊張しました。体重が10キロ以上減ってないとダメなはずだけど私は6キロしか減ってない、だから「あなたは点滴の対象じゃないから、打てないよ」と言われるはずだどうしよう、と本当にドキドキして、サバをよんで「8キロ減った」と言うことにしました。

 そして、お医者さんに「とにかくつわりがツラいんです。めまいもひどくて、8キロ減りました。点滴を打って欲しいです・・・」と言うと、「エッ!?8キロ!?それは大変、今すぐ打って行って下さい。もしかしたら入院になるかもしれません」と言われ、「10キロじゃなくてもいいんだ!」とすごく嬉しかったです。

 しかし今思うと、「10キロ以上」っていうのはネットのどこか、覚えてもいないサイトで見た情報で、6キロだろうが0キロだろうが、つらかったら「点滴を打って欲しい」というのは、何ら間違ってないし、打ってもらえるべきだと思います。

 

 看護師さんから何度も「脱水症状を治す点滴だから、つわり自体がなくなるわけじゃないからね」と言われました。それでもいいから打ってくれ!! 

 打ち終わるのに6時間かかりました。それでも、本当に助かった。帰りはスーパーで買い物できるほどに回復し、その後も結局、入院することはありませんでした。

 「お腹に何も入ってない時は、バナナかヨーグルトかおかゆから始めてね」と看護師さんに言われて、そういえば空きっ腹にきゅうりのぬか漬けなんて食べて、それによってさらに大幅に体調を悪化させてたんだと気づきました。だけどつわり中は「食べられると思うものがあったら食べておいて」とか言われるし、こっちも朦朧としながら必死なので「とにかく何かを口に入れなきゃ」と思ってました。 

 その後、「生活上のにおいがツライ、油物や刺身が食べられない」くらいのつわりで過ごすことができて、「あのツラさって、つわりが発端だけれども、ほとんどが脱水症状だったんじゃない?!」と思いました。

 

 私はもともと吐かない(吐き気というものが湧いて来ない)体質なんですが、体調が劇的に悪化してからは、吐き気がしました。つわりの症状だと思っていたけど、脱水症状にも吐き気ってあるんですよね。点滴を打ったら吐き気がなくなったので、私の場合は脱水の症状だったと思います。

 5年前のつわりでは、近所の産婦人科へ妊婦健診に行くにも、3メートル歩いては座り込む、みたいな感じでした。ゼーゼーしてめちゃくちゃ苦しくて、歩けませんでした。あれも、今回よりも物凄い酷い脱水症状だったんだとしか思えなくなりました。なんであんなに必死で耐えてたのか、謎です・・・・・・。

 

 昨今は、夏になると「熱中症」についての警告が、テレビのニュースでこれでもかと流れます。毎朝毎朝、「水分を十分にとって!冷房をつけて!」とアナウンスされ、脱水症状の危険性が繰り返し流れます。最近では「冬も隠れ脱水症状がある」と言われるようになり、とにかく脱水症状への警告は休み無く発令されています。 

 つわりというのは、食べ物だけじゃなく、水分もろくにとれなくなることがある。つまり脱水症状になりやすい。だけど、「つわりは我慢するしかないもの。赤ちゃんが育ってる証拠だから、良いもの」という、もはや「ほほえましいジャンル」に入れられていないか? くらいに思います。だから妊婦本人も、必死で目をつぶってしまう。すごく緊張しながら決死の「つらいです」アピールをしてやっと点滴を打ってもらう。そんな環境は変わるべきなんじゃないかと思います。「つわり、ちょっとつらかったらすぐ点滴」がもっと普通のことになるべきです!

 

 そのために私は、「つわり中」という人がいたら、「ちょっとつらかったらすぐに点滴打ってもらうんだよ!」と伝えることを決意しました。

 しかし、つわり中の人はまず不用意に外出しなかったり、「いまつわり中」と人に話したりしないことが多いので、「つわり中」の人が見つからないのです!

 

 だからこれを見ている「つわり中」の方、ちょっとでもつらかったら、病院で点滴を打ってもらってくださいね! 

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田房永子

1978年東京都生まれ。2000年漫画家デビュー、翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。コミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA中経)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。2作目『ママだって、人間』(河出書房新社)では、自身の妊娠・出産について執筆。妊娠中や0歳育児で感じた、母乳信仰や母性神話の不合理さについてのエッセイ『母乳がいいって絶対ですか?』(朝日新聞出版)など話題作を続々と発表中。

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