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【医師監修】妊婦さんは子どもと食べ物を共有しないで!サイトメガロウイルスについて産婦人科医、きゅー先生に伺いました

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サイトメガロウイルスの名前は聞いたことがあるけれど、内容や症状についてはよく知らないという妊婦さんがほとんどなのではないでしょうか? 検査は受けるべきかどうか、予防法などについて、きゅー先生に伺いました。(以下きゅー先生談)

 

サイトメガロウイルスって何? 感染経路は?

サイトメガロウイルスとは、人の唾液や排泄物などを介して、人と人の間で感染するウイルスです。普通の人は感染しても「風邪ひいたかな」程度の症状しかないのですが、妊娠中に初感染すると胎盤を通しておなかの赤ちゃんも感染してしまうことがあります。

 ちぃすりぃさんが先生に言われたように、おなかの赤ちゃんがサイトメガロウイルスに感染すると、流産、早産、低体重児、小頭症などの症状の他、胎児に障害が出る可能性があります。「そんな怖いウイルスなのに、なぜきちんと検査しないの?」と思われるかもしれませんが、それには理由があるのです。

 

サイトメガロウイルスの検査が全妊婦さんに行うことが勧められない理由

サイトメガロウィルスの感染を知るためには、IgG、IgMという2種類の抗体価を測定しますが、産科ガイドラインにおいてはこの検査は全ての妊婦さんに一元的に行うことは推奨されていません。理由の一つは感染が判明したところで、現在有効な胎児治療が確立していないという事ですが、それ以上に「抗体価測定結果の判断の曖昧さ」があげられるのです。

 

そもそも世の中の検査はそんなに万能な訳ではない

まず前提として医学で行われるほぼ全ての検査は、100%の確率で白黒はっきりさせることができる訳ではありません。本当は陰性なのに陽性となってしまう【偽陽性】、逆に陽性なのに陰性と判断されてしまう【偽陰性】、さらには1点の検査だけでは判断が難しいため、時間をあけて再度検査して初めて診断がつく様な検査もあります。それらの誤差を全て考慮して、最もバランスが取れているところで検査の標準値を設定しているのです。

さて、では「抗体価の測定」はどの様な仕組みを利用しているのでしょうか?

 

感染からの時間を推測する抗体価測定

ウイルスが感染したかどうかを調べるには、感染後、体内に生じる抗体の値(IgG、IgM)を調べて判断します。抗体というのは、ウィルスや細菌といった抗原が感染したときに対する体の防御機能のこと。通常IgMは感染初期に上昇し、遅れてIgGが上昇します。

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この仕組みを利用して、感染からどれくらい時間がたったかを推測するのが「抗体価測定」です。図の様に採血B(IgM(+)・IgG(—))や採血C(IgM(+)・IgG(+))の検査結果の場合は、IgMの数値が高いため、感染初期である可能性が高いと考えられます。

しかしながらIgM・IgGの推移はウィルスや細菌の種類によって異なるため、一概に判断できません。感染の疑いがある場合は、時間を空けてIgMやIgGを再度チェックしないとわからないという曖昧な検査でもあるのです。

 

サイトメガロウィルス抗体価検査の実際

実際にサイトメガロウィルス抗体価検査を行った場合の結果をシミュレートして見ます。

 

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<IgGが陰性の場合>

サイトメガロウィルスに感染しやすいため注意する必要があります。昔は抗体を持っていない人は1割程度でしたが、現在は約3割と言われています。

<IgGが陽性だった場合>

以前に感染が起こり、ある程度抵抗力がある状態と言えます。しかしIgGを持っていても再び感染する可能性もあるため、結局は感染に注意する必要があります。

 

・・・>IgGが陽性だった場合は、妊娠中の感染かどうかを調べるためにIgMの値に注目します。

 

<IgG陽性:IgM陰性>

昔サイトメガロウィルスにかかったことがあることを示し、抵抗力があると言えます。しかしIgGを持っていても感染する可能性はあるため、結局は感染に注意する必要があります。

<IgG陽性:IgM陽性>

時間をおいてIgMが消失した場合は新規感染が考えられますが、抗体価に変化がなかった場合はグレーゾーン。いずれにせよ、妊婦健診経過で赤ちゃんの状況を注意深くチェックしていくしかありません。

 

一般的にIgMは早くに減少し、IgGは少しずつ減っていきますが、サイトメガロウイルスの場合、感染はとっくに治っているのにIgMが長期間高い値で保たれたりするケースや、IgGが認められていても再び感染する事もあるので、抗体価測定が正直あまり有効でない疾患の一つと言えるのです。

そこまで万能な検査では無いうえに、感染が判明したとしても治療が確立している訳でもありません。結局のところ、妊婦健診経過で赤ちゃんの状況を注意深くチェックするしかないのです。ただし、何も手立てが無いというわけではありません。正しい予防方法を心がければ、ウイルス感染を防ぐことはできます。次で正しい感染予防法について説明します。

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子どもの食べ残し、キスは避けて。手洗いを徹底

唾液や排泄物を触った際に手をしっかり洗うことが大切です。特に上の子のお世話をしている妊婦さんは、オムツの処理はもちろんですが、よだれや吐瀉物に触れた後は、こまめに手を洗うようにしましょう。お子さんとのキス、同じスプーンを使う、子どもの食べ残しを食べるなどの行為からも感染する場合があるので注意が必要です。

とはいえ、よだれに触れたから100%感染するわけではありません。冬場にインフルエンザを予防するのと同様に、こまめな手洗いを心がければ大丈夫です。

 

<産科ガイドライン>

サイトメガロウィルス感染予防のための妊婦教育・啓発の内容

  • 以下の行為の後には、頻回に石鹸と水で15~20秒間は手洗いをしましょう。
    オムツ交換
    子どもへの給仕
    子どものハナやヨダレを拭く
    子どものおもちゃを触る
  • 子どもと食べ物、飲み物、食器を共有しない
  • おしゃぶりを口にしない
  • 歯ブラシを共有しない
  • 子どもとキスをするときは、唾液接触を避ける
  • 玩具、カウンターや唾液・尿と触れそうな場所を清潔に保つ

 

不安に囚われず、赤ちゃんの成長に目を向けて

「万が一、赤ちゃんが感染していたら…」と不安に駆られる妊婦さんもいるかもしれませんが、赤ちゃんの異常は妊婦健診のエコーで確認できるので、サイトメガロウィルス感染によって大きな影響がある時はある程度察知することは可能です。

日本は他の国に比べても超音波で赤ちゃんをチェックする回数が多いので、不確定な検査をして不安感が増長されるより、今の赤ちゃんの成長に目を向けて欲しいというのが私の意見です。疑問に思うことがあれば、担当医に相談を。医療機関と上手にコミュニケーションを取りながら、前向きな気持ちで妊娠期間を過ごすようにしてください。

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きゅー先生

産婦人科医・医学博士。「遠藤レディースクリニック」院長。アメブロ公認トップブロガー。「専門的な知識をとにかくわかりやすく!」をコンセプトに開設したブログ「産婦人科医きゅーさんが本当に伝えたい事」が評判を呼び、現在23000人を超える読者に向け産婦人科の知識を伝えている。

書籍:『妊娠・出産を安心して迎えるために 産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』(KADOKAWA)