「赤ちゃんはね……」母乳が出ないと泣く私を救ってくれた、看護師さんの言葉
2016年6月、予定日まであと約2ヶ月のころ。
産院で「母乳育児を希望しますか?」と聞かれた私は、「絶対ではないですが、できれば母乳で……」と答えました。
頑なにはこだわらないけど、やっぱり母乳はあげてみたいな。でも赤ちゃんの状態によってミルクを使ってもいいな。
夫も私の弟もほとんどミルクで育ったけど健康体だし、母乳にこだわるとノイローゼ気味になっちゃうこともあるらしいし。肩肘張らずにいこう!程度に思っていました。
そう、いざ出産するその日までは……。
その2ヶ月後、2016年8月某日。日付をまたいですぐの深夜、当時22歳の私は第一子である長男を出産しました。
自然分娩で、会陰が少し裂けたりはありましたが母子共に健康。私の傷の縫合も終わり、体重などの測定を終えて体をきれいにしてもらった赤ちゃんが連れて来られました。ベッドの上での対面です。
小さくて、ほやほやの、産まれたての赤ちゃん。
赤くてむくんでいて、正直「可愛い!」という見た目ではなかったけれど、嬉しくて嬉しくて。
「この子がお腹の中にいたのか……!」と妙に感心してしまいました。
「おっぱい、吸わせてみますか?」
にこにこした助産師さんの問いかけに、私は興奮気味に「はい!」と答えました。
助産師さんはテキパキと赤ちゃんを寝かせ、私のおっぱいを出し、体制を整えてくれます。
そして、私の人生に大変な衝撃が走ります。
赤ちゃんが私の乳首をパクリと咥え、ちうちうと吸い出したその時でした。
「かっ……!!わいいなーーー!!」
と、自分でも、ちょっとびっくりするくらい大きめの声で叫んでいました。口から勝手に飛び出したような勢いでした。
可愛い!可愛い!!可愛い!!!
えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!!なんだこの子は!!!
雷に打たれたような、とでもいうのでしょうか。とにかく「可愛い!!」で頭と身体中がいっぱいになりました。まさに愛情大爆発。溢れ出す母性本能。もう誰にも止められない……。
初めての経験です。あまりの衝撃に、私は色んな意味で大興奮でした。
この衝撃的な体験で、私は思いました。
「この子を母乳で育てたい!!」
そして翌朝から、個室の病室で母子同室での入院生活がスタートしました。
赤ちゃんが泣き、助産師さんに教わりながらの授乳が始まりました。幸い私の乳首の状態と赤ちゃんの吸い方がマッチしたのか、スムーズに吸われ始めました。
一生懸命吸っている私の赤ちゃん。幸せでいっぱいでした。
ですが。
母乳はほとんど出ていませんでした。
私はにわかに不安になりました。
看護師さんには、
「新生児の体重が一時的に減るのは心配いらないですよ。でも出生児の体重から10%以上減ったらミルクを足します。母乳は赤ちゃんに吸われることでつくられるから、沢山吸わせてあげてね。」と励まされました。
頻回授乳の幕開けです。
泣かれて、左を吸わせて、右を吸わせて、赤ちゃんが寝て、ベッドに寝かせて、私も横になっ……たところでまた泣かれて。
私はまだ傷も痛みます。首も据わらない赤ちゃんの扱いに緊張感も続き、何より「母乳が出ない=赤ちゃんのお腹が満たされない!」という焦りから、私の精神は少しずつ追い詰められて行きました。
産後数日後の、夜中のことでした。
どんなに頻繁に長くおっぱいを吸わせても泣かれてしまい、私もついに泣き出してしまいました。
看護師さんに優しく「泣いてるの?どうしたの?」と聞かれ、たまらず
「この子はお腹を空かせている。私のおっぱいが出ないせいでお腹を空かせて泣いている。この私の子だからきっとこの子も食いしん坊なのに、私はこの子のお腹を満たしてあげられない」といったことを支離滅裂に泣きながらこぼしました。
その看護師さんは、他の方の中でも特別穏やかな方でした。
ぼろぼろと涙を流す私に、静かにお話ししてくださいました。
「これくらいの赤ちゃんは、まだ空腹感は分かりません。お母さんのぬくもりを求めて泣くんです。泣いて、お母さんに抱っこされて、おっぱいにくっついて、安心したいんです。泣いておっぱいを吸うのは、お母さんのあたたかさを求めているんですよ。」
これを聞いて、涙と共に色んな感情が溢れ出しました。
そうだったんだ、良かった、良かった、ごめんね、ごめんね、良かった……
泣いて泣いて、なんだか楽になった気がしました。
この時の看護師さんの言葉が、医学的に正しいのかは素人の私には分かりません。
もしかしたら、産後で不安定な私を励ますために看護師さんがついてくださった優しい嘘かもしれません。
それでも私はこの言葉でとても救われました。とても、とても嬉しかったのです。
その後はミルクを数回足しつつ頻回授乳を頑張り、念願の母乳育児をすることができています。
長男ももうすぐ一歳になります。
これから卒乳や断乳が待っていますが、その後もきっとこの時のことは忘れないのだろうなと思います。
著者:大福餅
子どもの年齢:0歳11ヶ月
我が子の太ももとほっぺたを触らずにはいられない専業主婦です!
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