「赤ちゃんを出産後、出べそになってその後痛みが出てなかなか治らなかった」というゆきさんの体験談。
ゆきさん自身が後から調べたところによると「腹直筋離開」というこの耳慣れない病気について、どんな病気なのかを立川市の井上レディースクリニック院長で産婦人科医の井上裕子先生に聞いてみました。
Q:腹直筋離開ってどんな病気ですか?なってしまう原因は?
A:おなかの前にある腹直筋という筋肉が縦に裂けてしまう状態のこと。筋肉がもともと薄く、妊娠でおなかが大きくなることに耐えらないことが原因に
腹直筋とは、おなかの前にある筋肉。おへそを真ん中にして両側に縦に並んでいます。みなさんもご存知の通り、妊娠すると赤ちゃんの大きさに合わせて子宮が大きくなっていきます。それに伴って腹直筋も伸ばされることに。
ただ、子宮が大きくなるスピードについていけなくなると、おへそを中心として縦にパックリ裂けてしまいます。それが「腹直筋離開」です。
腹直筋は、通常おへその左右にくっついている状態。それが腹直筋離開になると、ぱっくり左右に裂けてしまうため、体験談のゆきさんのように産後、でべそになる人が多くいらっしゃいます。主に腹筋の弱い人や華奢なモデル体型の人など、要はもともと全体的に筋肉量が少ない人がなりやすい傾向にあるようです。
ゆきさんが「さわるとぐじゅっとした」ありますが、その正体はおそらく臓器ではないでしょうか。腹直筋が裂けてしまったので、その下にある臓器に直接触れてしまったんだと思います。
Q:自分で「なった」ってわかるもの?
A:「腰痛などの症状があらわれて気づく人も腹直筋離開すると不自然な姿勢のせいで腰に負担がかかり、腰痛から気づく人が多いかもしれません。
また、腹直筋離開した人は、妊娠線ができやすいという面もあります。その他、おなかに力が入らないため、便秘や陣痛が弱いなどで気づくケースもあります。
Q:なったかの診断法は?なってしまったときのケア方法はある?
A:産後1カ月以降から筋トレを。最初はストレッチ的なことからでもOK
腹直筋離開したかどうかは、医師がおなかを触ればすぐにわかりますよ。
なってしまった場合は、産後1カ月を過ぎたころから、運動をして筋肉をつけることが、早く治す近道といえます。もとからスポーツを定期的にやっていれば、「筋トレ」をすることに抵抗がないかもしれませんが、やり慣れていない人にとってはハードルが高いですよね。
そういう人は、ストレッチからでもいいです。また、ラジオ体操をやるだけでもOKです。これなら時間としても5分以内で終わるし、赤ちゃんのお世話の合間もやりやすいと思いますので、ぜひトライしてみてください。
大切なのは、継続してやることです。10カ月かけて大きくなったおなかなので、最低でも同じ10カ月をかけて戻していくイメージを持ちましょう。
また、普段から姿勢に気を付けることもポイント。授乳する際も前かがみではなく背筋を伸ばした姿勢を意識したり、食事やテレビを見る際も姿勢を意識するだけでも、筋肉がつきやすくなると思います。
さらに、「見た目がきれい」「美しく若く見える」という効果も期待できます。
注意したいのは、始める時期です。お産から1カ月は、とにかく妊娠、出産で酷使した体をきちんと休めるようにしてください。
また、慣れない人が筋トレを始めると、思わぬ個所を傷めてしまうケースもあるので、できれば専門家に最初指導してもらうのがいいでしょう。
Q:ならないように妊娠中にできることは?
A:妊娠前なら筋肉をつけるための運動を。妊娠中なら20週ぐらいから骨盤ベルトを巻いてケアを
妊娠前なら継続的にスクワットをはじめ、筋肉をつける運動を行うのがいいでしょう。
妊娠中ならば、20週くらいから骨盤ベルトを巻いておくと、急激なおなかの膨らみに腹直筋が対応できるようサポートする役割を果たしてくれます。
ゆきさんのようにビー玉で押すとサポーターを巻いているのと同じような状態になるので、一時的な痛み緩和にはつながるかもしれませんが、根本的な症状の解決にはつながりません。やはりおなかに筋肉をつけることが腹直筋離開に対応する近道になり、筋肉をつけることでむくみや骨粗しょう症の防ぐことにもつながるようです。
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井上裕子先生
医学博士。日本産科婦人科学会専門医。東京・立川にある「井上レディースクリニック」院長。思春期、妊娠、出産、不妊など幅広い年代の女性の悩みにきちんと寄り添い、優しくわかりやすくアドバイスしてくれると、多くの患者さんから支持され続ける先生。
著書、監修に『赤ちゃんとお母さんのための妊娠中のごはん』『産婦人科の診療室から』などがある。