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【医師監修】ハイリスクって言われても、妊婦さんには 「案ずるより、産むがやすし」の心でいて欲しい 荻田和秀医師(りんくう総合医療センター)に聞きました。

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妊娠・出産は病気ではない―。このことは誰もが知っていることだし、普通は、お産をしても母子ともに元気であるものだ、と思っている人も少なくないでしょう。

しかし、大反響だったドラマ「コウノドリ」によって、妊娠・出産にはリスクがあり、医療の支えがなければ命さえ落とす人もいる、ということが、一般にも知られてきました。

ハイリスク妊娠についての初歩的な知識と、お産のリスクについて一般の妊婦さんはどう考えておいたらいいのか、「コウノドリ」の舞台のモデルとなった、りんくう総合医療センター産婦人科の荻田和秀医師にお聞きしました。

 

 

「ハイリスク分娩」とは、医療介入がなければ正常に分娩が終わらないお産

 ――そもそも、ハイリスク妊娠とか、ハイリスク分娩とは何でしょう?

荻田先生:流産や早産に直結する要因がある妊娠やお産はもちろん、合併症などもまとめて、正常に分娩が終わらない可能性があるものを、「ハイリスク妊娠」「ハイリスク分娩」と呼んでいます。

 実は「ハイリスク」の明確な定義はないんです。なので、うちの病院では、医療者が見て、このお産には介入をしないといけない可能性があるな、と思われるものを、ハイリスクと言っています。

 

――りんくう総合医療センターは、国から「地域周産期母子医療センター」の指定を受けていて、地域の産院からの紹介で、ハイリスク妊婦さんもたくさん来院や入院をされていますね。

荻田先生:年によっても違うんですが、年間800~1000件くらいの分娩が行われるうちの、55%くらいがハイリスク分娩に該当します。まぁだいたい半数超えるくらい。それらは、事前に、どんなことが起こるかを想定して医療的な介入の準備をしておかなければならない妊娠です。その7割くらいが、地域の産婦人科クリニックから、合併症などの理由で転院してこられた方々です。

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ハイリスクなお産では、医療者は、どのようにそのリスクを分散させるかを考えている

――医療のサポートがなければ、母子ともに元気な出産の割合はずいぶんと少ないだろう、と容易に想像できます。でも、一つの地域周産期センターで、そんなにもハイリスク妊婦さんが多いのですね。

荻田先生:既に存在する大きなリスクに対して、そのリスクを分散させて、安全性を担保しようというのが、我々、医療者側の戦略なんですよね。

 

――リスクの分散、ですか?

荻田先生:例えば、前置胎盤(※胎盤が子宮口にかかり、胎児の出口をふさいでしまう疾患。1000人に30~50人の割合で起こる)の症例では、お産のときに大出血して、母子ともに命にかかわるかもしれない。だから、自然な陣痛が発来する前に、赤ちゃんにとってはちょっと早い時期かもしれないけど、帝王切開で産みましょう、と。お母さんのリスクを、赤ちゃんにも少し引き受けてもらうわけです。

早い週数からの医療的な管理が必要なので、ご家族にとっては、入院が長引くとか、医療費がかかるとか、そういうデメリットはあるにせよ、母子の命が危険にさらされるよりはいい。

つまり、そこに存在するリスクを妊婦さん一人でしょい込むのではなく、少しずつ分散することで、一つ一つのリスクのボリュームを下げて安全に切り抜けよう、というのが、今日の周産期医療における、ハイリスク分娩を安全に遂行させるための戦略なのです。

 

 

ローリスクの妊婦さんなんて存在しない

――ただ、翻って見てみると、日本の周産期死亡率はとても低く、「安心して赤ちゃんが産める国だ」と言われています。必要以上に怖がることもない、と考えることもできますが。

荻田先生:では、ローリスクの人はいるか、というと、僕はいないと思っています。これまでローリスクであった人でも、いきなりハイリスク妊婦になる可能性を持っている、ということは知っておいて欲しい。どんなに元気な人でも、もしかしたら入院が長引いたり、命にかかわる合併症が出てきたりするかもしれない、ということは理解してもらったうえで、信頼できる医療機関と相談して妊娠・出産を進めていってほしいです。

 

――これまで何の持病もなく、健康そのものであっても、ですか?

荻田先生:そう思っていること自体が心配ですね。年齢も高くない、持病もない、おなかの赤ちゃんも元気、という人が、いきなり血圧がポンっと上がったり、常位胎盤早期剝離(※おなかの中で胎盤が突然はがれる疾患。大出血を起こし、母子ともに危険な状態になる。1000人のうち100人前後に起こるといわれている。)になったりするんです。

 

――妊娠高血圧症候群は、かかる人が多い妊娠合併症として知られています。親や家族に高血圧がいない、自分のこれまでの既往もない、という人でも、かかる可能性はある、と。

荻田先生:あります。

 

――妊娠によるさまざまな生理的変化によって、病気のスイッチが入ってしまうということでしょうか?

荻田先生:そうです。妊娠は病気ではないのですが、いきなり、病的な状況になる可能性は、誰にでもあるのです。それは理解しておいてほしい。

 

――ならば、一般の妊婦さんはどういう心構えが必要ですか?

荻田先生:妊婦健診をきちんと受けること。また、自分が長期入院することになった場合などに、経済的なことも含めて誰かに力になってもらえるよう相談しておく、ということをしてもらえたら。でも、それだけで、あとは、心配してほしくないんです。

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心配しないで。あなたの代わりに、心配しておきますから。

荻田先生:ハイリスク分娩をずーっと見続けてきましたが、結論として、古くから言われているように「案ずるより産むがやすし」と妊婦さんは思っておいて欲しいのです。

 

――リスクを抱える人にとって大切なことは?

荻田先生:家族や信頼できる医療機関とその問題を共有することです。あとは医療者に任せて、過度な心配をしないことです。

「医療チーム」というと、なんだか、僕らとか、新生児科とか麻酔科の先生とか思い浮かべるかもしれませんが、違うんですよ。ご主人とか、友達とか、コミュニティとか、おじいさん・おばあさんとかぜーんぶ込みで、出産・育児を支えるチームですから。

そのチームの人々に、自分にはこんなトラブルがあって、こうなるかもしれないから、万が一のときにはよろしくね、と伝えておきましょう。働いている妊婦さんは、仕事先の人にも。

周産期にかかわる医療者は、リスクから想定される命にかかわるトラブルのためにいろんな準備をしています。一般の妊婦さんには、リスクがあることは知っておいて欲しいけど、それでも、心配はしないでください。我々が医療者は、心配するのが仕事。心配するプロなので、あなたの代わりに心配をしておきます。そういうことなんだと思います。

 

取材・文/秋田恭子 写真/梶 敬子

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荻田 和秀先生

産科医。大阪府泉佐野市にある、りんくう総合医療センター産婦人科部長。「コウノドリ」のモデルでもある。産科救急やハイリスク症例の搬送も毎日のように行われる地域周産期医療センターで、母子のために昼夜診療に当たっている。