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【医師監修】どんなお産がいいのかは、人によって全然違うもの。自分のお産は、自分がいいと思う産み方で。 荻田和秀先生(りんくう総合医療センター)に聞きました。

f:id:akasugu:20180122212251j:plainお産が間近に迫ってくるにつれて、「陣痛の痛みに耐えられるか不安―」、そんな声をもらす妊婦さんは少なくありません。どうにかしてポジティブにお産に望めるよう、お産の痛みや、産み方などについてどのように考えたらいいのか、「コウノドリ」の舞台のモデルとなった、りんくう総合医療センター産婦人科の荻田和秀先生にお聞きしました。

 

 

「痛みを消し去る物質」というのが脳内に出ている

――お産の前は誰もが不安だと思うのですが、以前編集部でアンケートをとると、出産前に、呼吸法や痛みの逃し方などについて事前に予習や練習をしていた、という人はどちらかと言えば少数派でした。

荻田先生:いいんですよ。事前に練習していても無駄になることもありますしね。お産は、当たって砕けろ、で臨んでもらえばいいと思っています。呼吸法は両親学級で教えたりしますし、痛みの逃し方なども伝えたりしていますが、初産の方はなかなか想像がつかないようです。

その一方で、お産を経験したことがある経産婦の人は、「痛かった」という概念は覚えているんですけど、どのくらいの痛みか、というのはあんまり覚えていないんですよね。

それはなぜか、というと、どうやら痛みを消し去る物質、というのが脳内に出ているらしくて。とにかく「痛かった」というのは覚えているけど、痛み自体を忘れてしまうのではないか、という説があるんです。でないと2人も3人も産めないですよね。

 

 

痛みやパニックのもとが「先の見えない不安」なら、どんどん聞いてみたらいい

――そんな、「当たって砕けろ」で、いいんですか?

荻田先生:いいんです(笑)。

とはいえ、不安があれば痛みも倍増するし、いてもたってもいられない、ということもあると思います。だから、どんなことが不安なのかは、近くにいる医療者や家族に伝えて、少しでも話しておくといいでしょうね。

いつまで続くのか分からない、これ以上強くなるのかも分からない、そんな先が見えない痛みだと思ったら、いてもたってもいられない。パニックになると、「今すぐおなか切ってください!」と言ってしまう気持ちも分からないではないです。不安になるのは当たり前。それを周りにいる人に伝えて、その不安をできるだけ取り除くようにしようという気持ちは、持っておいてもらったほうがいいかもしれないですね。

例えば、どのくらいこの痛みが続くのだろう、とか、おなかの赤ちゃん大丈夫なのかな、とか。いろんな不安がその都度、その都度、出てくるもんなんです。それを一つひとつ、つぶしていくんです。周りの医療者とか家族とかに言って。一言、「大丈夫ですよ」って言ってもらったら、すごくラクになった、という人もいますので。だから、自分が感じた不安は、ため込まないで伝えるようにしましょう。

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「いいお産」って何か?自分が満足できれば、それでいい

――出産に向けて、フィジカルなこと、例えば柔軟体操など、やっておいたほうがいいことはありますか?

荻田先生:ありません(笑)。

医療的な介入をしないために、科学的ではないことを、周産期医療者でも言ってしまうことがあるんですよ。長いこと仕事をしていると、分娩ってこうあって欲しい、というのを描きがちで。

 

――理想の流れ、というのがある、と。

それがいつのまにか、こう在るべし、になってしまっているプロの人っているんですよね。そうじゃなかったらアカン、っていう。僕はそうではなく、いろんな局面に対して柔軟に対応したいと思っています。そのために、例えば、体操やってはいけない、とは言わないですけど、何をしたらいいですか、という問いには、「特にないです」と答えています。お産は生理現象ですからね。

自分のお産なのだから、好きにやったらいい、と思う。病院は、どうなっても、最後には赤ちゃんが生まれるようにしてあげるから、それは大船に乗った気持ちでいい、と。それが医学的に赤ちゃんに良くないことだったら、やめてねって言いますけど。それだけの話です。

それは、妊婦さんご自身が、自分で納得して満足できるお産にしてほしいからです。

世に数多ある情報誌やネットの情報などで、お産はこうあったほうがいいですよ、とかこれがいいですよ、ということに落とし込んでいるものには、疑問を感じます。例えば医療介入を否定して、自然分娩を礼賛していたり、イベント化するようにけしかけたり。

 

こういうお産が理想だ、と断定的に出産や育児の良し悪しを打ち出しているような情報は、取り合わないでほしいです。満足できるお産って、人によって違うし、初めてと2回目、3回目でも全く違うものですから。すべての周産期のことがらについて、「ええんちゃう」、というのが僕のポリシーです。

荻田先生へのインタビュー記事:

【医師監修】ハイリスクって言われても、妊婦さんには 「案ずるより、産むがやすし」の心でいて欲しい 荻田和秀医師(りんくう総合医療センター)に聞きました。

【医師監修】帝王切開の人は皆、痛みに耐えて頑張っている。 自分のお産に誇りを持って欲しい 荻田和秀医師(りんくう総合医療センター)に聞きました。

【医師監修】もしもおなかの赤ちゃんに病気が見つかったら? 荻田和秀先生(りんくう総合医療センター)に聞きました。

【医師監修】どんなお産がいいのかは、人によって全然違うもの。自分のお産は、自分がいいと思う産み方で。 荻田和秀先生(りんくう総合医療センター)に聞きました。

 

取材・文/秋田恭子 写真/梶 敬子

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荻田 和秀先生

産科医。大阪府泉佐野市にある、りんくう総合医療センター産婦人科部長。「コウノドリ」のモデルでもある。産科救急やハイリスク症例の搬送も毎日のように行われる地域周産期医療センターで、母子のために昼夜診療に当たっている。