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【医師監修】妊娠中の「貧血」。鉄分が不足するとどんな問題があるの?

妊娠中に診断される貧血の多くは、鉄分の不足による「鉄欠乏性貧血」です。なぜ妊娠中に鉄が不足するのか、貧血になると何が心配なのか。貧血と、妊娠中に欠かせない栄養素「鉄」について、とことん解説します。

監修医師

村田雄二先生

大阪大学医学部名誉教授。
ベルランド総合病院 周産期医療研究所 所長・医学教育センター長。産婦人科専門医。米国産婦人科専門医。米国周産期医学専門医。

大阪大学医学部卒業後、南カリフォルニア大学医学部産婦人科准教授、カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科准教授を経て1986年カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科教授に就任。1996年大阪大学医学部産婦人科学教室教授、2002年大阪大学医学部附属病院副院長を経て、2006年同大学名誉教授。日米で産科医療の臨床研究と若手医師の育成に長年携わり、次世代のリーダーとなる人材を多く輩出。2009年より現在の病院にて、日本国内、特に大阪における産婦人科医療体制の整備・充実に尽力している。

なぜ妊娠中は貧血になりやすいの?

ヘモグロビンの生成に欠かせない「鉄」

血液は、赤血球・白血球・血小板・血漿で組織されていますが、このうち赤血球の成分であるヘモグロビンは、体内の各組織に酸素を供給するという大切な役割を担っています。このヘモグロビンを生成するのが「鉄」です。鉄が不足するとヘモグロビンの量が減少し、その結果、血液の酸素を運搬する力が落ちてしまいます。これが「鉄欠乏性貧血」です。妊娠中は、①胎盤に送るために血液量そのものが増える ②母体に蓄えられていた鉄が胎児に優先的に送られる という2つの理由から多くの鉄分が必要になるため、貧血になりやすくなります。妊娠初期・中期・後期に血液検査を行い、血中のヘモグロビン濃度が11g/dlを下回ると、貧血と診断されます。

【鉄が不足する理由その1】血液量が増え、赤血球も作られる

妊娠中、胎児を育てるために胎盤にも血液(栄養・酸素)を送る必要があることから、妊婦さんの循環血液量は増加し続けます。妊娠28~36週頃には妊娠前と比べ約1000mlも増加し、妊娠前の約1.5倍もの量に達します。このとき血漿(水分)の増加がはるかに多く、赤血球の増加が追いつかないため、血液は「水血症」と呼ばれる薄まった状態になります。これは妊娠による生理的な変化であり心配はいりませんが、赤血球を増やすために妊娠前よりも多くの鉄分が必要となるため、貧血になりやすくなります。

ちなみに、妊娠中の薄まったサラサラの血液は、母体にも胎児にとってもよいものです。サラサラしていることで循環しやすく、胎盤に多くの血液が行きわたります。これによって赤ちゃんは胎盤に集まったお母さんの血液を通して酸素や栄養を受け取ることができるのです。一方、母体にとっては、ドロドロの血で起こりやすい血栓症が予防されます。

【鉄が不足する理由その2】胎児へ供給する鉄も必要に

これに加えて、妊娠後期になると胎児の成長に必要なため、母体に蓄えていた鉄は胎児に優先的に運ばれます。このため妊娠初期に比べ、妊娠中期~後期ではその2倍以上の鉄分が必要になります。さらに産後も、分娩時の出血からの回復が必要で貧血に気を付けたい時期は続きます。これらの理由から、妊娠中は鉄分を意識してとる必要があるのです。

貧血だとどんなことが心配?

血中の酸素不足で母体にも胎児にも影響が

鉄が不足してヘモグロビンが作られなくなるとどうなるのでしょうか。多くは無症状ですが、ひどくなると血中の酸素が不足して、体を動かしたときに動悸や息切れ、頭痛、めまい、倦怠感、顔色が悪くなるなどの自覚症状が現れることも。また、重度の貧血になると、妊娠高血圧症候群や微弱陣痛、分娩時の出血量の増加、感染を起こしやすい、母体の産後の回復が遅れやすいなどの原因となるほか、母乳が出にくくなることがあります。また、胎児への影響も大きく、早産や発育遅延の心配があります。

貧血予防はバランスのよい食生活がカギ

妊娠中・後期は、特に鉄分摂取を積極的に

以上のように妊娠中、母体にとっても胎児にとっても鉄分は欠かせない栄養素です。貧血の予防と改善に、毎日の食事から鉄分を積極的にとるようにしましょう。1日の推奨摂取量は、妊娠初期は8.5~9mg、妊娠中期~後期は21~21.5mgと妊娠後半期はとりわけ鉄の需要が高まります。また、鉄剤を処方されている場合は、必ず服用しましょう。

コラム

鉄分を豊富に含む食品

レバー※や赤身の肉類、魚(イワシ、カツオなど)、貝類(しじみ、アサリなど) 大豆製品(豆腐、納豆、凍り豆腐、豆乳、厚揚げなど)、緑黄色野菜(ほうれん草、小松菜、カリフラワーなど)、海藻(青のり、ひじきなど)、ごま、アーモンド、松の実
※レバーに含まれるビタミンAは、とりすぎると胎児の先天異常の発生率が高くなるという報告があります。食べるときは週1~2回、1食あたり60g(2串)程度にしましょう。

鉄分の吸収UPにはバランスが大切

鉄分の摂取には食材を組み合わせて食べることがとても大切です。例えば、植物性食品の鉄(非ヘム鉄)は、動物性食品の鉄(ヘム鉄)に比べて吸収されにくいのですが、たんぱく質、ビタミンCを含む食品と組み合わせることで吸収率がUPします。鉄分不足が気になる人は、まず1日3食を規則的に取り、主食・主菜・副菜を組み合わせることで、バランスのよい食事を習慣にしていきましょう。

この記事のまとめ

妊娠・出産に必須の「鉄」は、バランスのよい食事から

妊娠中に問題になる「鉄欠乏性貧血」は、赤血球のヘモグロビンの主成分である鉄が不足するものです。これは、妊婦さんの血液量が妊娠前の約1.5倍に増えることと、赤ちゃんを育てるために母体の鉄が優先的に赤ちゃんに使われることがおもな原因で、重症になると出産や赤ちゃんの発育に影響も生じます。妊娠中は、鉄分の豊富な食品を中心に、たんぱく質、ビタミンCを組み合わせ、バランスのよい食生活を心がけましょう。

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構成・文/
福永真弓
イラスト/
小波田えま

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