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【医師監修】妊娠中の「おなかの張り」が不安。どんな張りだと危険なの?

妊娠中、個人差はあるものの誰もが感じる「おなかの張り」。立ちっぱなしだったり、疲れたりしたときに感じる張りもあれば、早産に関係する張りもあるといいます。張りを感じたらどうすればよいのか、またどんな張りの症状なら受診すべきなのか。「おなかの張り」について気になることをお伝えします。

監修医師

村田雄二先生

大阪大学医学部名誉教授。
ベルランド総合病院 周産期医療研究所 所長・医学教育センター長。産婦人科専門医。米国産婦人科専門医。米国周産期医学専門医。

大阪大学医学部卒業後、南カリフォルニア大学医学部産婦人科准教授、カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科准教授を経て1986年カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科教授に就任。1996年大阪大学医学部産婦人科学教室教授、2002年大阪大学医学部附属病院副院長を経て、2006年同大学名誉教授。日米で産科医療の臨床研究と若手医師の育成に長年携わり、次世代のリーダーとなる人材を多く輩出。2009年より現在の病院にて、日本国内、特に大阪における産婦人科医療体制の整備・充実に尽力している。

妊娠中に「おなかが張る」とはどういう状態?

子宮は筋肉なので、生理的に収縮が起こる

「おなかの張り」とは、子宮が収縮(引き締まって縮まる)する感覚のことです。

赤ちゃんを育てる子宮は筋肉のかたまりで、まるで手鞠のように何層もの筋繊維が走っています。普段は鶏の卵より少し大きいくらいですが、子宮筋がどんどん大きく伸びて臨月を迎える頃にはスイカ以上の大きさにも。筋肉なので妊娠していないときにも収縮はあり、月経の血液が押し出されてくるのも子宮が収縮しているからです。

その感じ方には個人差がありますが、子宮が急速に大きくなる妊娠初期では、「下腹部が重い」「月経痛のような痛みがある」など、そして体がお産の準備に入る後期では、「おなかがカチカチ」、「パンパンに張っている」といった表現で言い表すことが多いようです。また、初期から中期には脚のつけ根や脇腹が痛むことがありますが、これは子宮を支える円靭帯が伸びて起こる痛みで、心配はいりません。

自律神経が子宮筋をコントロールしている

なお、子宮の筋肉は平滑筋です。子宮のほかにも胃や腸管、血管、膀胱など、内臓の筋肉は心臓をのぞいてほとんどが平滑筋です。平滑筋は自律神経の支配下にあり、ホルモンの影響を受けやすくなっています。リラックス状態であれば筋肉はゆるんでいますが、びっくりしたり感情が揺さぶられたりすると、キュッと縮みます。ストレスで胃が痛くなる、夫婦ゲンカをして子宮収縮が起こるというのは、自律神経の影響であり、自分の意思でコントロールできないものです。疲れたり冷えたりしても子宮筋は収縮するため、そんなときはおなかが張っているな、と感じるかもしれません。おなかの張りを予防するには、疲れやストレスをためないことも大切です。

おなかが張ったらどうしたらよい?

安静にしてしばらく休むことが基本

おなかが張っていると感じたら、基本的には安静にして休むことが大切です。まずは横になり、リラックスして少し休みましょう。外出中であれば無理をせず、座れるところを探して休んでください。これで張りが自然に治まってくれば心配はありません。頻繁に張るという人は、主治医に伝えて子宮頸管や子宮口の状態に早産の兆候がないか診てもらいましょう。

また、通勤で立ちっぱなしの時間が長い、立ち仕事で休憩しにくいなど、仕事中におなかが張りやすい状況になる場合は、職場の人にも相談して休憩を取れるように理解を得ましょう。母子手帳にある「母性健康管理指導事項連絡カード」を主治医に記入してもらって会社に提出し、通勤時間の調整や勤務内容の変更をしてもらうという方法もあります。

こんな張りの症状は、病院で受診を

切迫早産などのトラブルの兆候となる張りに注意

おなかの張りは、生理的な収縮で心配のないものがほとんどですが、中には危険な兆候を示すものもあります。以下のような場合やいつもと違う張りを感じたら、自分で判断せず、なるべく早めに受診しましょう。

□妊娠初期~
●安静にしていてもおなかの張りが治まらない
●強い下腹部痛がある
●出血が見られる
●1時間に3回以上張りを感じる
●張りの間隔が次第に短くなっていく

…おなかの張り・痛みや出血から始まることの多い流産。妊娠12週未満の早期流産は染色体異常など胎児側の原因が多く、防ぐことができません。一方、切迫流産であれば、安静にしていることで妊娠の継続が可能です。一刻も早く受診しましょう。

□妊娠中期~後期
●安静にしていてもおなかの張りが治まらない
●痛みが徐々に強くなり持続する
●1時間に5回以上の張りを感じる、また張る間隔が次第に短くなっている
●おりものに薄く血液が混じる、量が急に増えてくる
●出血をともなう

…周期的なおなかの張り・痛みは分娩の兆候であり、切迫早産(早産になりかかっている状態)の可能性が考えられるので、すぐに病院に連絡し、診察を受けましょう。安静にして適切な治療を受ければ、おなかの中で赤ちゃんを育て続けることができるので、気になる症状があれば受診し、早期発見することが大切です。

●おなかが大きくパンパンに張る
●息ができない、吐き気をともなう

…糖尿病などが原因で胎内の羊水がたくさん増えてしまい、子宮筋が緊張状態になるほど張ってしまう「羊水過多症」の可能性がある症状です。すぐに受診しましょう。症状が軽ければ安静にして様子を見ますが、改善しない場合は羊水を抜く処置をすることもあります。

●おなかがカチカチに固くなり、激しいおなかの痛みがある
●少量でも出血をともなう(出血がない場合もある)

…おなかの赤ちゃんの成長に欠かせない酸素や栄養をやりとりする胎盤が、何の前ぶれもなく出産の前に突然はがれ落ちてしまう「常位胎盤早期剥離」の可能性が。母子ともに命に関わる重大な病気です。症状は切迫流産とよく似ていて、多くの場合は出血とおなかの張りや痛みですが、出血が見られないことも。激しい下腹部痛があれば、救急車で一刻も早く病院へ行きましょう。

この記事のまとめ

張りが頻繁に起こったり、治まらなかったりしたら受診を

おなかの張りとは子宮が収縮する感覚のことで、生理的なものです。しばらく休息して張りが治まるようなら心配はありません。ただし、張りが周期的に持続したり、どんどん強くなっていったり、出血や痛みをともなったりする場合は、早産などの危険もあるため早めに受診しましょう。

構成・文/
福永真弓
イラスト/
小波田えま