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【医師監修】妊婦は温泉に入ってOK?初期でもいい?注意点とは?

妊娠中にパートナーと2人でゆっくり温泉旅行に行きたいと考えている妊婦さんもいるでしょう。でも周りの方から「妊娠中の温泉はやめておいた方がいいのでは」と言われ、不安になった人もいるのではないでしょうか。
そこで妊婦さんが温泉に入ってもいいか、初期、中期、後期など時期別の対応まで医師が解説。あわせて温泉の効果や、注意点などをまとめました。

監修医師

杉山太朗先生

田園調布オリーブレディースクリニック 院長

医学博士。2001年信州大学卒業後、東海大学医学部付属病院、東海大学医学部専門診療学系産婦人科講師を経て、2017年に田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。やさしいお人柄とわかりやすくソフトな説明に惹かれ遠方から通う患者さんも多い。4人のお子さまのパパ。

妊婦は温泉に入っても大丈夫?

かつて妊婦の温泉は禁忌だった

2014年6月までの昔は、環境省の「温泉法」という法律によって、初期と後期の妊婦さんは、温泉に入ることはタブーとされてきました。なぜタブーとされたかの理由ははっきりとはわかっていません。
ただ、温泉法は、1948年に作られた法律です。今と違って衛生状態も良くなく、温泉地の社会環境も整っていなかったことなどからタブーとされたのではないかと考えられています。2014年6月にこの法律は見直され、温泉の禁忌症(体に悪い影響をきたす可能性がある病気や病態のこと)から「妊娠中」の文言を削除されました。

調査結果から妊娠中も温泉OKに

2020年に発表された一般社団法人日本温泉気候物理医学会の調査によると、大分県別府市と鹿児島県指宿市の1723人の妊婦さんを対象に、妊娠中の温泉入浴と医学的トラブル(流早産、妊娠高血圧症等)の関連について調べた結果、妊婦さんが温泉に入ることと、妊娠中に起こる医学的トラブルの発生は関係がないということが明らかになりました。
こういった調査結果をふまえ、現在では一般的に初期、中期、後期に関係なく妊婦さんが温泉に入ることは問題ないとされています。環境省が温泉の利用方法についてまとめた「あんしん・あんぜんな温泉利用のいろは」の中でも妊婦さんが温泉に入ることは問題ないと記載されています。

妊娠中の温泉入浴で得られるうれしいこと

妊娠中はホルモンバランスが不安定になり、その影響で気分の浮き沈みが激しくなる方も少なくありません。そういった状況の場合、じんわりと体をあたためてくれる温泉につかることで、心と体の緊張をほぐし気持ちを安定させる効果があるといわれています。さらに日頃のストレスを解消してくれる場合も。

また、妊娠中は体を温めることが大切ですが、おなかが大きくなるにつれ、全身の血流が悪くなる傾向にあります。温泉に入ることで血流がよくなり、冷えを改善できる場合も。手足がポカポカ温まることで寝つきがよくなるというメリットもあります。

妊娠中、おなかが大きくなるにつれ運動不足ぎみになる方もいます。そうなると首や肩がこり、頭痛が生じたり、腰痛を引き起こすケースも。温泉につかることで筋肉の緊張をゆるめ、痛みやコリが緩和されることがあるようです。

妊娠中に温泉に入ることはOKで、得られる効果はいくつかあることがわかりましたが、妊婦さんが温泉に入浴する際、押さえておきたい注意点があります。

妊娠中に温泉に入る際に気を付けることは?

転倒に注意

泉質によっても異なりますが、温泉の浴槽や洗い場は、滑りやすくなっています。さらにおなかが大きくなってくると、足元が見えづらくなるので、より転倒する可能性が高くなります。転倒するとおなかが刺激され、トラブルが引き起こされる可能性もゼロではないので、ゆっくり、慎重に動くようにしてください。

熱すぎる湯船やサウナ、水風呂は避けて

入浴する前に必ず温泉の温度を確認するようにしましょう。温泉には42度以上の高温に設定した湯船や、源泉のままで温度調節されていない湯船もあります。熱すぎるお湯に入ると血圧が急にあがり、おなかの赤ちゃんにも影響を与える可能性があるので、注意を。
またサウナや水風呂も同様で、血圧が急変動しやすいので、妊娠中は控えてください。

空腹、食事直後の入浴は避ける

空腹で入浴すると立ちくらみを起こしやすくなります。食事の時間まで数時間あるときは、ゼリーなど消化のいいものをおなかに入れ、小腹を満たしてから入るといいでしょう。
逆にご飯を食べておなかいっぱいという状態でお風呂に入ると消化不良になり、気分が悪くなってしまうことも。食後30分程度経ってから入浴を。

温泉の入浴時間は10分前後に

妊娠中は体を循環する血液の量が多くなっているため、長風呂をするといつも以上にのぼせやすくなります。「体が冷えていると良くないから」と、長く入浴する妊婦さんもいますが、それはNG。めまいなどを起こして転倒したらトラブルにつながるケースもあります。1回の入浴時間は10分前後にしましょう。

一人では入らない

一人だけで入浴していると、万一倒れた場合に対処が遅れてしまうケースがあります。妊娠中は急激に体調が変化することも十分にあり得るので、誰かと一緒に入浴するようにしてください。

水分補給をしっかりとする

妊娠中は必要な水分量が多くなります。入浴すると体内の水分は減ってしまうので、入浴前に180~200ml(コップ1杯程度)の水を飲むのがいいでしょう。

湯冷めに用心

おなかが張る原因の1つに冷えがあります。入浴後、気持ちいいからといって薄着でいると知らない間におなかが冷えてしまうことも。体のほてりがひいたら早めに着るように心がけて。宿泊施設が浴衣の場合、はだけてしまう可能性が。パジャマを持って行き、寝る前に着替えるといいでしょう。

自宅から2時間以内を目安にし、事前に医療施設のチェックも

安定期であっても長時間の移動は、妊婦さんとおなかの赤ちゃんに負担がかかります。自宅から2時間以内で行ける温泉地にするのがいいでしょう。また、何かあった場合に備えて宿泊先近くの医療施設は、事前に確認を。母子手帳と保険証は忘れずに持って行くことが大切です。

妊娠中の温泉Q&A 温泉卵は食べていい?感染症のリスクは?

温泉卵は食べても問題なし。ただしすみやかに食べて

温泉でゆでた卵は、トロトロのものから固めのものまでさまざまありますが、妊娠中食べてよいか迷いますよね。生卵を食べた際に怖いのがサルモネラ菌です。サルモネラ菌に感染した場合、激しい嘔吐や腹痛、発熱などの症状がみられます。サルモネラ菌は70度以上で1分間以上加熱することで死滅するといわれています。温泉卵の場合、概ね70度で30分以上加熱しているため、妊婦さんが食べても問題ないでしょう。
ただ、妊娠中は、普段よりも抵抗力が弱くなっているので、温泉卵を買ったらできるだけ早めに食べるようにしてください。

温泉入浴による感染症のリスクは低いが、できれば部屋風呂に

妊娠中は、おなかの赤ちゃんを妊婦さん自身の体が「異物」と思って排除しないよう体をガードする「免疫」が抑えられているために感染症にかかりやすい状況になっています。そうはいっても温泉にはいったことで子宮や腟に感染症が起こったというケースは、今のところ証明されていないので、過度に心配する必要はないでしょう。ただ、多くの人と共用する洗面器や椅子はよく洗ってから使用を。

また、大浴場の場合、脱衣所のバスマットも多くの人と共用することになり、感染症にかかるリスクは高くなります。特にタオルなどを媒介して感染するヘルペスに妊娠後期に感染した場合、おなかの赤ちゃんにも感染する可能性があります。赤ちゃんに感染すると発熱や皮膚の発疹、呼吸障害などが見られ、治療が遅れると大きなトラブルにつながることもあります。

このように温泉のお湯によって感染症にかかるリスクは低いですが、洗面器や椅子、バスマット、タオルなどを共用することで感染症にかかるリスクは高まります。大浴場ではなく、部屋風呂にすると、こういったリスクは軽減することができるでしょう。

この記事のまとめ

妊娠中は温泉に入ってもOK!ただし転倒などに注意して

かつては妊娠中に温泉に入ることはタブーとされていましたが、最近では初期、中期、後期に関係なく妊娠中に温泉に入ることは、問題ないということがわかりました。ただ、転倒や血圧急上昇なども考えられるので、そういったリスクをケアしつつ、入浴することが大切です。
また温泉に行く際は自宅から2時間以内の場所に。万一のことを考え、行く前に主治医に伝えておきましょう。

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構成・文/
高橋知寿
イラスト/
小波田えま