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【医師監修】妊娠中の「動悸」と「息切れ」はなぜ起こる?どう対処すればいい?

「妊娠してから階段を上がるだけで胸がドキドキする、ハアハア息が切れる」、「心臓の拍動が強かったり早かったりするのを感じる」「夜、動悸や息苦しさで眠れない」など、動悸や息切れが気になることはありませんか。なぜ妊娠中は動悸や息切れを感じやすくなるのか、そのメカニズムをお伝えします。

監修医師

村田雄二先生

大阪大学医学部名誉教授。
ベルランド総合病院 周産期医療研究所 所長・医学教育センター長。産婦人科専門医。米国産婦人科専門医。米国周産期医学専門医。

大阪大学医学部卒業後、南カリフォルニア大学医学部産婦人科准教授、カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科准教授を経て1986年カリフォルニア大学アーバイン校医学部産婦人科教授に就任。1996年大阪大学医学部産婦人科学教室教授、2002年大阪大学医学部附属病院副院長を経て、2006年同大学名誉教授。日米で産科医療の臨床研究と若手医師の育成に長年携わり、次世代のリーダーとなる人材を多く輩出。2009年より現在の病院にて、日本国内、特に大阪における産婦人科医療体制の整備・充実に尽力している。

妊娠中に「動悸」や「息切れ」を感じやすいのはなぜ?

脈拍や送り出す血液量が増え、心臓の負担に

妊娠中は、妊娠によって起こる生理学的な変化によって、正常でも動悸を感じやすくなっています。その原因のひとつは血液量の増加です。妊娠中、胎児を育てるために胎盤にも血液(栄養・酸素)を送る必要があることから、妊婦さんの体を循環する血液量は少しずつ増え、妊娠20週後半には妊娠前と比べて血液量は妊娠前の約1.5倍もの量に達します。

それにともなってより多くの血液を全身に送り出すために、心拍数(脈拍)や心拍出量(1分間に心臓から全身に送り出される血液の量)も上がり、心臓の負担は増えます。通常の心拍数は1分間に65~75回くらいですが、妊娠の経過とともに徐々に増え、妊娠後期では10~20回増となります。

酸素不足に敏感になって息切れも

また妊娠中は、妊娠初期から息切れも多くなります。これはプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で、血液中の二酸化炭素の濃度を察知するセンサーが妊娠前に比べて敏感になっているためです。血液の中の二酸化炭素濃度が上がると息苦しく感じ、体に呼吸が要求されるため、息が切れてしまいます。

さらに子宮が大きくなってくると横隔膜が持ち上げられます。妊婦さんの横隔膜は普通の人よりも約4cmも上がっており、肺が圧迫されると呼吸が浅くなって横隔膜の上下運動が妊娠前よりも大きくなることから、動悸や息切れが出やすくなります。

水血症による血中の酸素不足も動悸の一因

そして、妊娠中の動悸は、「水血症」とも関わりがあります。先にも述べたとおり妊娠中は血液の量が1.5倍に増えますが、この時、特に血液中の液体成分である血漿(けっしょう)が著しく増加して赤血球(ヘモグロビン)の増加が追いつかないため、妊婦さんの血液は薄められたような状態となり、貧血と同じような症状が現れます。これを「水血症(偽性貧血)」といいます。

それに加えて妊娠中は赤ちゃんの成長に必要なため、母体に蓄えていた鉄は赤ちゃんに優先的に運ばれます。このため特に妊娠中期~後期では妊娠初期に比べてその2倍以上の鉄分が必要になり、不足しやすい状態です。

赤血球の成分であるヘモグロビンは、体内の各組織に酸素を供給するという大切な役割を担っていますが、このヘモグロビンの中核となるのが「鉄」です。鉄が不足してヘモグロビンの量が減少すると、血液の酸素を運搬する力が落ちてしまい、酸素不足を補おうと心拍数が上がって動悸や息切れが起こります。

「動悸」や「息切れ」を感じたら、どう対処する?

「無理せず休む」「リラックス」を心がけて

このように妊娠中は動悸や息切れが起こりやすくなりますが、多くは妊娠に体が対応して起こる変化なので、病気ではありません。心臓への負担を減らすためにもゆとりを持ってゆっくりと動くことを心がけて、動悸や息切れ、疲れやすさを感じたら無理をせずに休みましょう。また、過度な体重増加は心臓により大きい負担がかかり、動悸や息切れの症状も重くなります。適切な体重管理で予防しましょう。

しかし、それまで隠れていた心臓病が原因となったり、症状を重くしたりすることもあるため、過度と思われる症状が出たり、繰り返したりするようであれば、産婦人科医に相談の上、循環器内科で診てもらうことも必要です。

さらに、動悸は不安やストレスとも関わりがあることから、リラックスして過ごすことも大切です。腹式呼吸を行い、深く呼吸することを意識してみましょう。特に呼気を長くすることで副交感神経が優位になり、心拍もゆっくりペースに。動悸が気になるときは試してみましょう。

貧血の予防に、鉄と葉酸を

また、妊婦健診で貧血(正しくはヘモグロビン値の低下)を指摘されている方は、貧血を予防することで動悸の症状もずいぶん緩和します。医師に鉄剤を処方してもらうほか、鉄だけでなくたんぱく質やビタミンCを豊富に含む食材をバランスよく食べましょう。また、赤血球の生産を助ける葉酸も積極的に摂取することが大切です。鉄と葉酸を摂ることで、妊娠後期に血液量が増えても血中のヘモグロビン濃度は減少しにくいため、動悸の根本的な解決となります。

この記事のまとめ

胎児にたくさんの血液を送っている心臓に、優しい過ごし方を

動悸は、妊娠中の女性にとって一般的な症状のひとつです。多くの場合は、循環血液量の増加で心拍数が上がったり、肺が圧迫されて呼吸が浅くなったり、貧血になりやすかったりと、妊娠にともなって起こる体の変化がその原因として挙げられます。過度に心臓に負担をかけないよう、心身ともにリラックスしてゆったりとしたペースで過ごしましょう。貧血の人は、鉄や葉酸を摂取することも効果があります。動悸による不快感が続いたりひどくなったりするようなら、かかりつけ医へ相談を。

構成・文/
福永真弓
イラスト/
小波田えま