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【医師監修】妊娠初期からの「やってはいけない姿勢」、「気を付けたい動作」とは?

妊娠がわかったら、おなかの中にいる小さな命を守るために体の負担になることはできるだけ避けたいと思うもの。妊娠初期以降、お家での生活や仕事の場面で、どんな姿勢や動作は避けた方がよいのか、どの程度なら大丈夫なのか。さらに妊娠中期や後期は?
妊娠中の生活で気になる姿勢や動作についてお伝えします。

監修医師

林 聡先生

東京マザーズクリニック 院長

産婦人科専門医、臨床遺伝専門医、超音波専門医、周産期(母体・胎児)専門医。広島大学大学院医学系研究科修了後、県立広島病院産科婦人科勤務、フィラデルフィア子ども病院・ペンシルバニア大学胎児診断・胎児治療センター留学、国立成育医療センター周産期診療部胎児診療科 医長を経て、2012年東京マザーズクリニックを開院。
妊娠中からの母体・赤ちゃんの健康管理、プロフェッショナルチームが支える中での無痛分娩を基本とした安全な分娩の提供、助産師による妊娠中および産後ケアの充実という3つの理念をもとに日々の診療を行っている。

妊娠したら、今まで通り動いてはダメ?

見た目は妊娠前と変わりなくても、体には大きな変化が

妊娠がわかって間もない時期から、全身のだるさや眠気、吐き気、頭痛など早くもつわりの症状が出たりして、体調の変化に戸惑っていませんか。妊娠すると、赤ちゃんを育てやすい状態の子宮になるようにいろいろなホルモンが分泌されたり、赤ちゃんに栄養や酸素を送る血液の量が少しずつ増えたりと、体も妊娠に対応して変化が起こります。病気ではないものの、さまざまな症状が起きたり、体が疲れやすくなったりしているのはこのためです。
体調がよければ妊娠前と変わらずに動いてもかまわないけれど、疲れたらすぐに休むことが大事です。また妊娠前に行っていたスポーツや旅行などは、かかりつけ医とよく相談を。

妊娠4~7週くらいまでは赤ちゃんの肺や心臓、消化器や四肢など主要な器官が作られる器官形成期、また7~15週くらいまでは赤ちゃんと母体をつなぐ胎盤が作られる重要な時期。 無理をしないで自分の体を大切に過ごしましょう。

日常の姿勢や動作で起きやすい症状は?

妊娠中は、普段何気なく動いていても、さまざまな体の不調が起こりやすくなっています

●めまい・立ちくらみ
妊娠を維持する働きをするホルモン・プロゲステロンの影響で血管も拡張し、血圧が下がりやすくなるため、頭に血が行きにくくなってめまい・立ちくらみを起こしやすくなります。急に立ち上がったときなどにクラクラしたり、目の前が真っ白になったりするようなことがあれば、転倒しないようその場にゆっくりしゃがみ込み、おさまるのを待ちましょう。

●動悸・息切れ
赤ちゃんに栄養と酸素を送るために妊婦さんの体を循環する血液量は少しずつ増加し、妊娠20週後半には妊娠前と比べて約1.5倍もの量に。全身に送り出す血液量や心拍数が増えるため、動悸を感じやすくなります。また、ホルモンの影響で酸素不足に敏感になり、体が呼吸を要求して息切れを起こすことも。妊娠が進むと子宮が大きくなって横隔膜が持ち上げられ、心臓や肺が圧迫されることも動悸や息切れが出やすくなる原因です。

●腰痛
もともと腰痛がある人で、妊娠初期からホルモンの影響で骨盤などの関節がゆるんで腰痛が悪化することもありますが、多くの妊婦さんはおなかが大きくせり出す妊娠後期に症状が出ます。背中を丸めた姿勢や、逆にバランスを取るために反り返らせた姿勢は腰に負担がかかるので、普段から背筋はまっすぐ伸ばし、正しい姿勢を意識して過ごしましょう。症状を緩和するには、骨盤ベルトを装着して骨盤がずれないように支えるほか、ストレッチや骨盤底筋のエクササイズもおすすめです。

このほか妊娠中期・後期には、おなかの張りやむくみといった症状も出やすくなります。
動悸や息切れを感じやすいなら心臓に負担のかからないようゆっくり動く、転びやすい体勢や急な動きはできるだけ避けるなど、妊娠中はゆったり余裕をもって行動することを心がけましょう。
そして「ちょっと具合が悪いな」と感じたら無理をせず、休んでようすを見ましょう。そのうちにおさまるようであれば、過度に心配しなくても大丈夫です。

普段の生活や仕事で気を付けたい姿勢・動作

①長時間立ちっぱなしでいること

それでは妊娠初期から妊娠期間全体にわたって、体への負担やトラブルにならないようにするためにはどんな姿勢や動作に気を付けるとよいでしょうか。

ひとつ目は、長時間立ちっばなしでいることです。長時間立った状態での作業が続くと疲れやすくなるだけでなく、妊娠中期以降になると胎児の重みが下半身にかかって子宮が収縮しやすくなり、切迫流産(妊娠22週未満)や切迫早産(妊娠22週以降)のリスクが高くなります。さらに妊娠後期では下半身がむくみやすくなり、そこから下肢血栓症※や妊娠高血圧症候群の合併症が起こりやすくなります。
※下肢の静脈に血栓ができること。下肢の静脈は肺にもつながっているため、妊婦さんが肺梗塞を起こして呼吸不全に陥るとおなかの赤ちゃんの命にも関わります。

接客や販売などの業務で立ち仕事をしている人も、妊娠中はできるだけ立つ時間を短くする、おなかの張りや痛みを感じたら休憩を取る、可能なら横になって休むなど、長時間立ちっぱなしでいることをなるべく避けるようにしましょう。

②重いものを持つこと

ふたつ目に、重いものを持つ(持ち上げる)ことも、長時間立っていることと同様に疲れやすく、おなかに力が入って子宮が収縮しやすくなります。切迫流産・切迫早産の危険性が高くなるので避けましょう。また重いものを持つと、バランスを崩して転倒しやすくなる、腰に負担がかかって腰痛を起こす、下半身がむくみやすくなるといったリスクも。仕事や引っ越し作業などで重いものを取り扱う場合は、無理をせずに他の人に代わってもらうようにしましょう。

上のお子さんがいる妊婦さんは抱っこを避けた方がよいのか悩む人も多いですが、神経質にストップする必要はありません。座った体勢で抱っこしたり、抱っこの時間を短めにしたり、周りの人にバトンタッチしたりと無理のないようにスキンシップを楽しみましょう。

「こんな姿勢・動作は大丈夫?」と迷ったら

自分自身が楽でリラックスできる姿勢がベスト

妊娠しておなかが大きくなるという初めての体験の中、「こんな姿勢や動作はよいの?」と気になったら、自分自身が窮屈に感じていないかどうかが一つのバロメーターになります。重いものを持ってちょっとつらい、ものを拾うときに前かがみになる姿勢が苦しい、などと感じることがあれば避けた方が無難です。

むしろ、妊婦さん自身が窮屈でなく心地よく感じる姿勢であれば、体にも負担がないということなので、それが一番よいと言えます。妊娠中、姿勢や動作で迷うことがあれば、「自分自身がリラックスできて楽な姿勢を取る」ことを心がけて過ごしていきましょう。

コラム

Q:寝るときの姿勢に戸惑います。うつ伏せやあおむけでないと眠れないとき、どうすればよいですか?

A:妊娠初期のうつぶせ寝は問題ありません。おなかが出ていると見てわかるようになるくらいの時期、だいたい妊娠20週くらいまでは気にしなくても大丈夫です。一方、おなかの重くなる妊娠後期にあおむけで寝ることは「仰臥位低血圧症候群」※のリスクがあり、気分が悪くなることもあるので気を付けた方がよいのは事実です。ただし、あおむけで寝る方が寝付きがよいし、楽だという場合はそれでもかまいません。自分なりに一番心地よいと感じる姿勢で寝てください。

※「仰臥位低血圧症候群」
子宮が大きく重くなる妊娠後期は、あおむけになると子宮が下大静脈(下半身の血液を集めて心臓に送る静脈)を圧迫して右心房に戻る血液が減少することがあります。これによって心拍出量(1分間に心臓から全身に送り出される血液の量)が減少し、血圧が下がってしまうことを「仰臥位低血圧症候群」と言います。めまいや嘔吐、冷や汗、呼吸困難、顔面蒼白などの症状が出るほか、重症の場合は呼吸困難やけいれんなどのショック症状も。左側を下にして横になることで下大静脈の圧迫がなくなり、速やかに回復します。

この記事のまとめ

自分自身が窮屈でなく、リラックスできて心地よい姿勢ならOK

妊娠中は、自分自身が窮屈に感じる姿勢や体に負担のかかる動作はできるだけ避け、ゆっくり・ゆったりを心がけて。特に、長時間立ちっぱなしでいることや重いものを持つことはトラブルの原因につながりやすいので、無理は禁物です。寝る姿勢や日常の動作で迷ったら、「自分自身がリラックスできて心地よい姿勢を取る」ことを優先すれば大丈夫です。

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構成・文/
福永真弓
イラスト/
ヒビユウ