【医師監修】妊娠中、飛行機に乗って海外旅行に行ってもいいの?
妊娠中の思い出作りに二人きりで旅行がしたい。海外に行くことは問題ないの?と考える人は少なくないでしょう。しかし、結論から言えば妊娠中の海外旅行は決しておすすめできない大きな理由があります。なぜ海外がNGなのか、なぜ長時間の飛行機がNGなのかなどについて説明します。
監修医師
宗田 聡先生
広尾レディース院長
茨城県立医療大学客員教授
医学博士。日本産科婦人科学会認定医・指導医。臨床遺伝学認定医・指導医。筑波大学卒業後、筑波大学講師として臨床・研究・教育に従事。その後、米国ニューイングランドメディカルセンター(NEMC)遺伝医学特別研究員、茨城県周産期センター長(筑波大学産婦人科臨床准教授兼任)などを経て、2012年より広尾レディース院長。東京慈恵会医科大学非常勤講師、筑波大大学院非常勤講師などもつとめる。
妊娠中の海外旅行はおすすめしません!
海外で万が一のことが起きたときにリスクが大きい
家族が増えたらなかなか行けないから、思い出作りに…などと海外旅行に行きたくなる人もいるかもしれませんが、実は妊娠中の海外旅行はおすすめできません。その理由は、もしも渡航先の国で体調を崩してしまったときに、日本と同じ医療体制で受け入れてもらえるのかわからないからです。さらに入院が必要になった場合、健康保険の仕組みが日本と異なるなかで膨大な費用がかかってしまうことも考えなければなりません。
医療体制や制度は国によって異なる
海外では日本の常識が通用しないことはさまざまなシーンで起こります。例えば、日本では救急車は無料ですが、アメリカをはじめとするいくつかの国では有料です。仮にアメリカで救急車を呼び、一泊二日入院しただけで何100万円も請求される…。そんなことが現実に起こりえるのです。
すぐに退院できる症状ならまだしも万が一そのまま早産となって出産した場合、予定よりも早く生まれた赤ちゃんは入院となり、さらに費用がかかり何千万…。症状によってはいつ帰れるのかの見当もつかないため、医療費はさらにかさんでいくでしょう。
言葉が通じない環境での医療スタッフとのやり取りにストレス
また、言葉が通じない異国の地では、緊急対応してくれる人や医療スタッフとのコミュニケーションが困難を極めることとなります。自分の症状や希望がうまく伝えられないストレス。さらに説明されても理解できないことで不安も募ることでしょう。出産した国での母乳育児や産後ケアなどのことまで考えていくと、やはり妊娠中の海外旅行はおすすめできない、という結論に至ります。
旅行は遠出せず近場の範囲にしよう
旅行先で体調を崩した場合のことを考慮
また、海外旅行だけがNGというわけではありません。国内旅行であっても、なるべく近い距離で何かあったときに主治医がいるいつもの産院に戻ってこれる程度の範囲にとどめましょう。
仮に羽を伸ばして遠方に旅行に行ってそこで体調を崩してしまった場合、海外旅行と同様にそこで滞留せざるを得ない状況になるのは往々にして考えられます。入院し、そこで早産となり出産に至った場合、赤ちゃんとともに自宅に帰れるのは数カ月先…ということになるからです。
コラム
妊娠中の飛行機搭乗のリスク
妊娠中の飛行機搭乗は医学的にNGというわけではありません。ただし、気を付けるべきことはあります。長時間のフライトで最も心配されるのは、エコノミークラス症候群のリスクです。エコノミークラス症候群とは、長時間じっと同じ姿勢で座っていることにより静脈の中に血の塊でき、その塊(血栓)が到着後の歩行などをきっかけに足から血流にのって移動し、肺の血管をふさいでしまう病気です。妊娠中は生理的な変化で妊娠前よりも血栓ができやすい状態になっています。そのため長時間の飛行機搭乗はなるべく避けるか、やむを得ず乗るならば水分を多めに取り、こまめに足首を動かして体操するなどの対策をとりましょう。
この記事のまとめ
妊娠中の海外旅行・遠距離の国内旅行は少し先までとっておこう
妊娠中の飛行機による海外旅行はおすすめできません。万が一体調を崩したとき、海外では医療体制や健康保険の仕組みが日本とは異なり、同等の医療サービスを同程度の金額で…とはいかず、負担が大きすぎるからです。遠方の国内旅行も同様に控えておくほうが賢明です。海外など遠方への旅行は、無事に出産を終えた後の少し先の楽しみとしてとっておきましょう。
- 構成・文/
- 秋田恭子
- イラスト/
- 山村真代